開発のストーリー
ENCOUNTER
蛍光灯型LEDランプとの出会い
開発者の一人である内村が始めて蛍光灯型LEDランプに初めて触れたのは2008年。
現在では1本5,000円前後で手に入る蛍光灯型LEDランプですが、当時は開発されたばかりで価格はおよそ20,000円という、まだまだ高額な時代でした。
中国などで大量生産されるようになり、ようやく少しずつ値段が下がり始めてはいたものの、新しい技術の製品で規格や規定がなく、安価に生産された商品は品質管理がかなりずさんでトラブルも多く起きていました。
そんな中、様々な製品の企画・開発サポートを行っていた私たちのもとに、LED照明の安全性や信頼性を確認してほしいと、とあるメーカーから依頼がきたのです。
ちなみに、その時の安全性確認試験では、その製品がかなり危険だということがわかり、採用には至りませんでしたが、これをきっかけにLEDに興味を持ち、研究・開発を手がけるようになりました。
LEDがまだ新しい技術だったこともあり、この研究・開発は一流の専門家と共同して進めることになりました。
そこで協力を依頼したのが、電源のスペシャリストとして通産省などでも経験のある外川氏です。
そして、最初に手がけたのが、大手鉄鋼メーカー(新日鉄)の製鉄所に使用できるLEDランプの製品開発でした。
依頼を受けた当時、この企業では省エネを推し進めており、全国およそ10カ所のすべての製鉄所の照明をLED化したいという要望がありました。
しかし、LEDに使用されている半導体というのは熱に弱く、既存のものではその環境に耐えられる製品がなかったのです。
そこで、私たちは、熱に強い=つまり、放熱の問題を上手に解決できる製品をめざして開発を行い、実際に製品化することに成功したのです。
その後、様々な事情が重なり、結果的には広く導入してもらうことはできませんでしたが、この研究によって得られたことはたくさんありました。
新製品を作る際には、環境を調査・計測し、必要とされる性能の基準を設けて、それを一つずつクリアしていくという作業を行います。
そのために、目標を設定しては何度も実験・検証・改善を丁寧に繰り返し、積み重ねていかなけければなりません。
この地道な作業を通じて、LEDの仕組みや性能を深く知ることで、今後の開発にもいかせる結果を得て、自信につながりました。
START
東日本大震災後、自販機の省エネ化に着手
その次に取り組んだのが、自動販売機の中の蛍光灯をLED化するという研究・開発です。
2011年、東日本大震災のあと、全国的に計画停電や省エネの動きが加速したことは記憶に新しいですよね。
当時、東京都知事だった石原慎太郎さんが「省電力化のために、全国の自動販売機の電力を削減したい、蛍光灯をなんとかできないか」という話が出たのです。
今でこそ、「そんなところまで・・・」と思われるかもしれませんが、あのときは少しでも電力を節約しようと、夜は電気を消している販売機もあったほどでした。
とはいえ、光がなくなると当然、自販機の存在が見えにくくなります。
そのせいもあって、売り上げが30%ほど落ちたというメーカーもいて、困っている状況が続いていました。
自動販売機の中の蛍光灯というのは、機種にもよりますが、だいたい最大で4本くらい。
しかし、当時はまだ、蛍光灯から簡単に取り替えられるようなLED製品がこの世になく、LEDにするためには配線工事が必須。
※現在でも、弊社が開発した「Simple-Tube」以外の製品では、電気工事が必要な蛍光灯型LEDランプがたくさんあります。取り付けの際はご注意ください。
出回っている自動販売機の台数を考えると、とてもじゃないが、すべてに配線工事をしてLED化するというのは現実的ではありませんでした。
こうして、工事をせずに使える蛍光灯型LEDランプの開発が急務となったのです。
私たちもさっそく、研究・開発に取り組みました。
とはいえ、そもそも工事をせずにLEDランプに取り替えるというのは、技術的に不可能なように思えました。
わかりやすく例えるなら、(たとえ話)
だからこそ、そんな製品はこれまでこの世になかったわけで、その開発が本当に可能か・・・?というのは、私たち自身も半信半疑の状態でスタートしました。
ORIGIN
工事不要の蛍光灯型LEDランプの原型
調査にとりかかってみると、自動販売機の中に使用されている電源はある程度種類が限られているということがわかりました。
ですから、その数種類に適合すれば良いので、思ったよりも苦労をせずに理想とする製品を開発することができました。
また、自動販売機は屋外という環境で使用されるため炎天下や極寒の地に置かれることもあります。
それを想定して、沖縄や北海道の屋外でも実験・検証し、データを集めました。
とくに熱に関しては、以前に製鉄所のLEDランプの開発で培った知識や情報、データを有効活用し、過酷な状況でも放熱に問題が生じない仕様を実現できました。
こうして完成したのが、自動販売機専用、工事不要の蛍光灯型LEDランプ。
これが、 「Simple-Tube」の原型です。
この製品は、実際に複数の販売機の製造元で採用していただきましたが、途中で大手電気メーカーが参入し、残念ながら、私たちはやむなく撤退を余儀なくされました。
FINISHED
試行錯誤の末、5年の歳月をかけて「Simple-Tube」が完成
「せっかく時間とお金をかけてここまできたから、この技術を何かに応用できないか」
こうして、私たちはこれまでの経験をいかし、工事なしで取り付けができる蛍光灯型LEDランプを一般の照明として製品化しようというプロジェクトが立ちがりました。
ところが、着手してすぐに大きな壁にぶち当たりました。
一般照明としての蛍光灯はとにかく種類が豊富すぎて、汎用性・互換性のある製品を開発するのが非常に困難だったのです。
安定器だけでも数千種類。
このすべてにおいて、安全や性能などのあらゆる実用性を一項目ずつ検証し、クリアしていかなければなりません。
とくに電気を使用する製品のため、安全面では100%の結果を出せるものでなければ、製品としては世に送り出すこともできません。
この実験・検証・改善の作業には途方もない時間を要しました。
正直に言って、もし自販機のLED開発を経験せずに、最初からこの課題に取り組んでいたら、途中で心が折れていたのではないか、と思うほど。
しかし、ここが日本のものづくりを支えている技術者の腕の見せどころです。
どんなに気が遠くなるような作業でも、簡単に「できない」「無理」と諦めるのではなく、根気強く、日々コツコツと作業を丁寧に積み重ねること、およそ5年。
ついに、私たちがめざしていた、工事不要の安全な蛍光灯型LEDランプ「Simple-Tube」が完成したのです。
VISION
消費者には喜んでもらえる製品を、若きエンジニアには情熱を
開発には苦労も多く、その上、せっかく完成した製品が採用されなかったり、大手メーカーとの競争に負けてしまうなど、ものづくりには失敗や挫折はつきものです。
しかし、私たちが諦めずに製品を開発し、商品として世に送り出すための努力を続けてこられた理由。
それは、ものづくりには夢があるからです。
大手メーカーにとっては、自社の製品が市場に出て広く売れるのは当たり前かもしれません。
しかし、私たちのような小さな規模でも、技術者が集まってものづくりをし、それが消費者に喜んでもらえて、大きな市場の0.1%でもシェアをいただけるなら、エンジニアとしてこれほど嬉しくやりがいのあることはありません。
ですから、私たちはいつでも、人の役に立てる製品であることを心がけて、開発に取り組んでいます。
また、今後も改善の余地がある限りは完成品とは言えませんし、より安全でより安く手に入れていただけるような商品をめざして、改良を続けていきたいと考えています。
私たちが開発したこの「Simple-Tube」は、一般のご家庭にある蛍光灯数本を取り替えたとしても、家計にとっては消費電力も電気代もそれほど大きく変わらないものかもしれません。
しかし、それが全国、全世界の何千、何万世帯のご家庭で交換されることになれば、地球全体にとっては大きなエコとなり、温暖化や未来の子どもたちに良い環境を残すことにつながっていくのではないでしょうか。
このような意義のあるものづくりを通じて、技術者としてはもちろん、一人の人間として、歳を重ねるほどに自分たちが生まれてきた意味を、何かに貢献する形で残していきたいと感じています。
さて、コツコツと繊細、緻密なものづくりができるのは日本人の良いところです。
しかし最近は、こうした根気のいる作業ができない若者が増えているようです。
「Simple-Tube」のプロジェクトチームは、かなり年齢層が高かったのですが、その分、開発者として長年培ってきた”コツコツ作業”は得意でした。
だからこそ、「そんなことできっこない」という常識を覆し、新製品を生み出すことができたのです。
一見、無謀だと思うことでも、諦めずに取り組むことで希望が見えてくることはよくあること。
私たちの愚直に取り組む背中を見てもらうことで、これからの若いエンジニアには諦めないことの大切さ、楽しさ、論理ではなくものづくりへのパッションを伝えていけたらいいなと思っています。